聖地巡礼
- deerglassesmegane

- 7月17日
- 読了時間: 2分
鯖江の卸業者・A社長とともに、サンプラチナを扱う工場を訪ねた。
これからも安定してサンプラチナを届けていくためには、供給実績のある組織と手を組むことが欠かせない。そう考えての訪問だった。
しかし、同じ「シンプルな眼鏡」をつくる者同士でも、最初はなかなか話が噛み合わなかった。
見た目は同じ一本でも、製造工程の順番は職人ごとに違う。
どこから手を付けるのか。どこで精度を出すのか。どこで時間をかけ、どこで省くのか。
製造には、それぞれが長年積み重ねてきた"リズム"がある。
同じ地表でも、地層の断面が違えば見える景色が違うように、その積み重ね方は人それぞれなのだ。

A社長と昼間に向かったのは、福井名物「ヨーロッパ軒」のソースカツ丼。
創業は1913年。
百年以上続く今や福井の味である。

食事をしながら、A社長がこんな話をしてくれた。
鯖江には、本来たくさんの技術や工夫が積み重ねられている。けれど、その「なぜそうするのか」という理由や過程までは十分に受け継がれず、当たり前にできていたことが、いつの間にか再現できなくなっていることがあるという。
個人技の色濃い分業制だからこそ、一人ひとりの経験や勘に支えられてきた工程も多い。だから、誰かが抜けたり工程が変わったりすると、「どこへ立ち戻ればよいのか」が見えなくなってしまう。そんな連鎖から抜け出せないことへの危機感を、A社長は率直に話してくれた。
分業による高度な専門性を積み重ねてきたからこそ、鯖江は世界的な眼鏡産地となった。
しかし、その数珠つなぎの構造は、一つの工程で小さなズレを修正する機会を失えば、その影響は次の工程、そのまた次の工程へと響いていく。一度途切れてしまった技術を取り戻すことは、決して容易ではない。
聖地と呼ばれる鯖江は、技術が自然に受け継がれる場所ではなかった。継続することの難しさと向き合い、受け継ぎ直す努力を積み重ねてきたからこそ、今日の鯖江があるのだと思った。

眼鏡は昔から変わらない。
テンプルを開き、耳に掛け、鼻の上に左右のレンズを乗せる。
その原型は、今も昔も同じだ。
けれど、その一本を支える技術や工程は、時代の要望とともに絶えず磨かれ、更新され続けた歴史がある。
変わらない味とは、じっと止まっている味ではない。
変えない何かがあるからこそ、見えないところでは変わり続けている。
また食べにきます
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